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なんろ
南路
宮本 百合子
「太陽」1922(大正11)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页
従来、自分の心にある植物という観念は、いつも変らない静謐(せいひつ)さ、新鮮、優しい沈黙の裡の発育というような諸点にかかっていた。ところが、こうして見る樹木ややどり木は、決してそんなに穏やかな生物ではない。厖大で、血が通っていそうで、激しく人間を圧迫する。南方の強烈な熱と、ミシシッピイ附近の豊饒な水分とが、特異な養液を根に送って、植物は皆、自身の感情と情慾を意識する動物のように見えるのである。
沼沢地が多い。そこには、底知れず蒼い藻が生え蔓っている。いかにも瘴気の立ち迷っていそうな処に、丸木を組んだ小屋がある。
チヤシを結って、木立ちの奥深く小径のついた場所もある。
日が高く昇るにつれて、自然には、云いようのない倦怠と、生活力の鬱勃(うつぼつ)とが漲って来る。この樹木と草とが、先を競って新緑に萌え立つだろう三四月頃を想うと、北方の血をうけた自分は、息の窒るような心持がした。
棉畑の中に立っては、淋しいなりに黒人も、自然を或る程度まで支配していることを思わせた。けれども、ここでは、彼等も、同じ地上に棲息してい、同じ圏境に生えているという点で、一本の大柳と、全く同様に感じられる。