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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

華盛頓以来、幾日ぶりかで都会らしい停車場の歩廊に降りると、私共は急いで改札口に出た。予定の時間より遅れたので、X氏を見失うことを虞(おそ)れたのだ。

「どう? 来ていらっしゃるらしくて?」

私は、良人の写真帳によって漠然と印象を得ている相貌を、多数の群集の中から見分けようとした。若し、彼が来られないとすると、私共の計画は小さいなりに齟齬(そご)する。これから行こうとする旅舎(ホテル)も、彼が前もって部屋を定めて置いてくれる筈なのである。

彼方此方見廻していると、ふと入口の方から、もう相当の年配の夫婦づれが、急いでこちらに向って来る。その眼の表情から、自分は確にそれがX氏夫妻に違いないと思った。

良人は、傍でポータアに金を払い、旅舎の様子か何かを訊いている。

私は、彼の注意を促した。矢張り、自分の眼は間違いなかった。二人とも髪の白い、どこか山羊に似た表情の共通な彼等こそX氏で、ロスアンジェルスに住む日本人間では、日本贔屓(びいき)として知られている人なのである。

如何にも親切に気を使って、種々云ってくれる。疲れただろう、会って嬉しい、と夫人は、私の片手を自分の手に執ったまま後から後からと話の種を出される。