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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

黒い無数の頭と泥だらけな手足。然し、どこにも澄んだ大空や、麗しい大地や、人類の生活を見守る瞳を見出せない。

サン・フランシスコという名の与える響は、どことなく軟かな暖みを帯びている。

然し、着いて見ると、風の荒い、いかにも厳しい冬の日が、我々を待っている。激しく揺れる渡船(フェリー)で対岸のオークランドに行き、そこからシアトルに向けて立ったのは、ちょうど感謝祭の夜であった。

翌二十八日を終日、オレゴンの森林帯で過し、落葉林に美しく霜の置いた朝景色を、ワシントン州に這入って見た。

午後の四時頃には、最後の止りであるシアトルに着くのだ。

然し、自分達は、いい難い心の重みと、憂鬱とを感じた。着かないうちは、急ぎもしないのに心がせき、いざ着くとなると、思わず笑顔を収めるような緊張を感じる。

ここぎりで、彼は東、自分は西と立別れる――あり得べきことなのだろうか。

半年の間に、互の上に何が起るか分らない。今、彼を見、声を聴く、瞬間に、生涯の記憶がかかっているのではないか。

海岸の港市は、小雨に濡れ、煙っていた。

我々は、黙って腕をくみあい、金モールの仕着せの玄関番が威勢よく開いた旅舎(ホテル)の扉を、内に入った。