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いんしょう

印象

小酒井 不木

「新青年」博文館、1926(大正15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,142 字 · 17 页

青空文庫

わが子を不具にしてまで良人を呪おうとする怖ろしい心。たとえ、夫人の予期したとおりのことが起るか起らぬかは保証し難いにしろ、少くとも、そうしたことをたくむ心には、戦慄を禁ずることが出来ませんでした。

妊娠中に目撃した印象が、そのまま胎児にあらわれるという現象は、古来の文献に少くありません。かような現象は、もとよりヒステリックな女に多いのですから、ことによると、夫人は、予期通りの子を生むかもしれない。そう思うと、私は藍色の皮膚をもち、鬼のような顔をした赤ん坊を想像して、全身の神経が痺れるように感じました。

私は何と答えてよいかに迷いました。前にも申しましたとおり、又、夫人自身の言葉からも察せられるごとく、夫人はその操行の点に兎角の非難のあった人であります。ですから良人が他に女をこしらえたことを、これほどまでに怨むのは、少しエゴイスチック過ぎはしないかと思いました。然し、申すまでもなく、人間の感情は、数理的に判断することが出来ません。そうして、また医師としては、そういう心は須らく撤回してしまいなさいと、立ち入って忠告することも出来かねます。又たとえ、忠告したところが、すなおにきいてもらえる筈がありません。