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やくどしとエトセトラ

厄年と etc.

寺田 寅彦

「中央公論」1921(大正10)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,428 字 · 19 页

青空文庫

そうして私は世俗で云う厄年の境界線から外へ踏み出した事になったのである。

日本では昔から四十歳になると、すぐに老人の仲間には入れられないまでも、少なくも老人の候補者くらいには数えられたもののようである。しかし自分はそう思わなかった。四十が来ても四十一が来ても別に心持の若々しさを失わないのみならず肉体の方でもこれと云って衰頽の兆候らしいものは認めないつもりでいた。それでもある若い人達の団体の中では自分等の仲間は中老連などと名づけられていた。

あまり鏡というものを見る機会のない私は、ある朝偶然縁側の日向に誰かがほうり出してあった手鏡を弄んでいるうちに、私の額の辺に銀色に光る数本の白髪を発見した。十年ほど前にある人から私の頭の頂上に毛の薄くなった事を注意されて、いまに禿げるだろうと、予言された事があるが、どうしたのかまだ禿頭と名の付くほどには進行しない。禿頭は父親から男の子に遺伝する性質だという説があるが、それがもし本当だとすると、私の父は七十七歳まで完全に蔽われた顱頂を有っていたから、私も当分は禿げる見込が少ないかもしれない。しかしその代りにいつの間にか白髪が生えていた。