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やくどしとエトセトラ

厄年と etc.

寺田 寅彦

「中央公論」1921(大正10)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,428 字 · 19 页

青空文庫

それから後に気を付けて見ると同年輩の友人の中の誰彼の額やこめかみにも、三尺以上距れていてもよく見えるほどの白髪を発見した。まだ自分等よりはずっと若い人で自分より多くの白髪の所有者もあった。ある時たまたま逢った同窓と対話していた時に、その人の背後の窓から来る強い光線が頭髪に映っているのを注意して見ると、漆黒な色の上に浮ぶ紫色の表面色が或るアニリン染料を思い出させたりした。

またある日私の先輩の一人が老眼鏡をかけた見馴れぬ顔に出会した。そして試みにその眼鏡を借りて掛けて見ると、眼界が急に明るくなるようで何となく爽やかな心持がした。しばらくかけていて外すと、眼の前に蜘蛛の糸でもあるような気がして、思わず眼の上を指先でこすってみた。それから気が付いて考えてみると、近頃少し細かい字を見る時には、不知不識眼を細くするような習慣が生じているのであった。

去年の夏子供が縁日で松虫を買って来た。そして縁側の軒端に吊しておいた。宵のうちには鈴を振るような音がよく聞こえたが、しかしどうかするとその音がまるで反対の方向から聞こえるように思われた。不思議だと思って懐中時計の音で左右の耳の聴力を試験してみると、左の耳が振動数の多い音波に対して著しく鈍感になっている事が分った。