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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
朝早くのことだ。まぐれ犬が裾のあたりを嗅ぎ嗅ぎつけてくる。それでも黙って眼を伏せている。そのみすぼらしい姿が、爽かな朝の明るみの中に、くっきりと浮出される……。
周平は堪らなく淋しい気になった。万事を放擲するつもりではいたが、やはり、何かを、やさしい眼付を、心の底に懐いて去りたかった。それが得られないならば、それを求めてることだけでも、せめて知って貰いたかった。彼女の無理解な怒りだけを荷って去ることは、余りに堪え難かった。彼女に――横田夫人にではなく直接彼女に、自分の思いを一言伝えたかった。それで更に彼女の怒りを買うなら、それは正当な怒りとして喜んで受けよう。
彼は机に向って、紙とペンとを前にして考え込んだ。到底口では云えないその文句を、彼女の前に投げ出して、それを読んだ時の彼女の眼付を――たといどんな眼付であろうとも――心に秘めて、黙って立去るつもりだった。
然し、それは口で云えないと同様に、文字にもなかなか現わせなかった。長い説明をはぶいて数語で尽したかっただけに、猶更困難だった。二三の言葉を頭に浮べたが、どれも皆胸にはっきりうつらないものばかりだった。