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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
そしてその結果が恐ろしくなった。お清の美しい二重眼瞼の眼がすぐ前に見開かれていた。
「いやに考え込んじゃったのね。」と暫くしてお清は云った。「もうそんな話は止しましょうよ。……何か面白いことはなくて?」
客は余り込んでいないらしく、家の中がひっそりしていた。周平はいつのまにか保子のことを考えて、涙ぐましい心地になっていた。お清の言葉に顔を挙げて見やると、酒のためか、額や蟀谷のあたりに陰鬱な影を漂わしていたが、ぽっと熱っているらしいその顔から、湿いを帯びた黒目と唇とが、まざまざと覗き出していた。
「何だか淋しい晩ね。」
心もち傾げた首をそのままに、身を反らせ加減に疊についていた左手を餉台の上に持ってきて、人差指の先で一寸頬を支え乍ら、彼女は室の隅にじっと眼を定めた。
その姿から、周平はもぎ離すようにして眼を外らした。愛慾とも感傷ともつかないものが、しみじみと胸の底から湧き上ってきた。電灯の光りが余りに明るく感ぜられてきた。心苦しくなって坐り直した。
「もう出ようか。」
「ええ。」
口先だけで軽い返辞をして、それでもじっと見返してきた彼女の眼を、周平は顔を伏せて避けた。