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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
「あの時預ったもの、お返ししとくわ。空っぽかも知れないわよ。」
差出された金入を受取ると、彼は自分でも訳の分らない感情に駆られて、眼に涙がにじみ出てきた。が、その間に彼女は身を引いて、停留場の方へ歩き出した。
電車の上から彼女が、堅く引緊めた頬に微笑を浮べて、伏目がちにこちらを透し見やった時、彼は振りもぎるような気持で、つと歩き出した。彼女を乗せた電車が側を走り過ぎると、凡てがしいんとなった。
彼は真直に下宿の方へ帰っていった。早く身を休息のうちに横たえたかった。もう何にも考えたくなかった。
星の光りの淡い寂しい空の下に、掘割に沿った崖道が先低く続いていて、その向うにぽっと明るい広辻の見えるのが、却って佗しい気分を唆った。首垂れながら歩いていると、何処からかまぐれ犬が出てきて、裾のあたりをうそうそ嗅ぎながらつけてきた。彼はそれをやり過しておいて、ふいと横町へ外れた。暫くして振り返ってみた。まばらな軒灯の光りが冷たく縮こまって見える、薄暗い夜更け通りには、生き物の影は一つも見えなかった。彼は不気味な慴えを感じて足を早めた。
下宿へ帰って自分の室にはいると、みすぼらしい室の有様が、ぴたりと心に映ってきた。