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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

思いもかけない保子との噂に心が顛倒して、それを抑えれば抑えるほど、呪わしい憤りが湧き上ってきた。保子に道ならぬ恋をしてるという意識が、更にそれを煽り立てた。時々耳に響く村田の鋭い言葉が、その気持に釘を打ち込んできた。

彼は敵意ある眼で村田の顔を睥みつけた。弁解するよりも突っかかっていった。

「卑しい想像は止すがいい。魂の腐った奴のすることだ。」

「何が卑しい想像だ!」と村田は叫んだ。彼もいつになく奮激していた、「自分のことを考えてみろ。」

その言葉が周平の胸にぐっと来た。彼は立ち上った。

「君こそ自分のことを考えてみろ。下らない噂の上に卑しい想像を逞うするのが、自分で恥しくないのか。」

村田は熱っぽい眼付で見上げながら、一寸唇を震わしたが、それを周平は咄嗟に、上から押被せた。

「勝手に僕のことをふれ歩くがいい。よかったら横田さんに告口でも……。」

云いかけて彼はぷつりと言葉を切った。恐ろしい閃きが頭を過ぎった。村田の熱っぽい鋭い眼付が俄に不安になった。

「下らない!」

捨鉢な気持で云い捨てて、彼はぷいと立ち去った。

「君は自分で肯定して、それを……。」

憤りと叱責との調子の言葉を、彼は後ろに聞き捨てながら、振り返りもしないで出て行った。