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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

その上、九月後の授業料のことも多少気にかかっていた。八月一杯下宿料が助かるとすれば非常に便宜だった。

然しいざとなると、彼はさすがに躊躇した。たとい不在中にもせよ保子の家で日を過すことは、自分の苦しい心の上に、更に悪い影響を与えはすまいかと恐れられた。また一方から云えば、彼女の旅行は、彼女から全然離れた所に自分の心を置いてみるのに、またとない機会であった。改めて何等かの口実で断ろうかとも、彼は考えた。然し決断をしかねてるうちに、その日となってしまった。

おかしな日だった。周平は朝早く起きて窓を開いてみた。空も地上も薄暗かった。今にも雨が落ちて来そうだった。今日は雨だから出発は延びるのだろう、と彼は思った。そして愚図々々していた。六時半頃雨傘を手にして出かけた。途中で、ふいに朝日の光りがさしてきた。空はいつしか綺麗に晴れ渡って、木立の陰に霧がすっと靉いていた。曇りだと見えたのは霧のせいだった。彼は足を早めた。

横田の家へいくと、もう出発の用意が出来ていた。

「なんだ、傘を持ってきたのか。」と横田は云った。

「ええ、雨かと思ったものですから。」

保子が笑みを含んだ眼で睥むようにして彼を見た。