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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

然し彼女は黙っていた。忙しそうだった。

彼は食事前だったから、大急ぎで朝食をした。それから、皆より一足先に出て、電事で上野駅へ見送りにいった。

朝も早いし、一ノ関までの列車でもあったせいか、乗客はわりに込んでいなかった。見送り人の少い妙に寂しい歩廊を、周平は腕を組んで歩き廻った。汽車の出るのが非常に待ち遠いような気がした。

「食べ物でも何でも、好きなように女中へ仰しゃいよ、あなたが家の中の主人だから。」と保子は云った。「でも、勝手に夜遅くまで飛び歩いたりなんかしちゃ駄目よ。……面白いことがあったら手紙をあげるわ。」

周平は黙ってその顔を見返した。

汽車が出てから、隆吉がいつまでも車窓へ首を出してこちらをじっと見ていたのが、変に周平の頭に残った。

彼はぼんやり佇んで、列車の姿が消えるまで見送っていた。淋しい気もした。ほっと安心の気もした。

十四

周平は斯くして、横田の家で暑中を過すことになった。眼の小さな足の短い肥った女中が、万事を世話してくれた。

平素来馴れた家ではあるけれども、居るべき人々が居なくてひっそりしてるので、初め彼は旅にでも出たような気がした。