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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

そこへ不意に、全く不意に、保子が隆吉を連れて帰って来た。

十七

それは綺麗にうち晴れた日の午後だった。周平は二階の室で、午睡とも云えないほどのうとうととした気持で、聞くともなく蝉の声に耳をかしていた。すると俄に、玄関に俥夫の威勢のいい声や女中の頓狂な声がして、次に保子の落着いた張りのある声がした。周平はそれと気づかないうちに立ち上っていた。階下にかけ降りてみると、僅かばかりの手廻りの荷物の中に、保子が隆吉の手を引いて立っていた。周平は一寸挨拶の言葉も出なかった。

「只今」と保子は云った。それから周平の顔を見つめた。「何を変な顔をしてるの? ……でも喫驚したでしょう。急に帰ることになったものですから、知らせる隙がなかったのよ。」

「先生は?」と周平は漸く尋ねた。

「お後。隆吉が病気なものですから、私だけ先に慌てて帰って来たのよ。」

然し見た所、隆吉は大した病気でもなさそうだった。ただ、動く度にひどく咳込んだ。保子はその上に屈み込んで、苦しかないかと聞いたりした。

座敷に床を敷いて隆吉は寝かされた。熱を測ると八度七分あった。かかりつけの医者へ女中が電話をかけに行った。