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おじ

叔父

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,585 字 · 24 页

青空文庫

「これを持ってゆくがいい。入用なだけある筈だから。」

それを手に取った喜代子の眼が、また黒水晶のように光ったようだった。

「有難う存じます。」と笹部は低く頭を下げた。

「なあに、礼には及ばないが……度々こんなことのないようにして貰いたいね。」

中野さんはひどく不機嫌になっていた。笹部と喜代子とが帰ってゆく時、座も立たなかった。

何という奴だ。……またあの喜代子までが一緒になって……。

それでも、ふっと……日の蔭るような風に、眼頭が熱くなってきた。それから便所に立った。ぞっとするような寒い晩だった。

中野さんはまた改めて熱い銚子の前に坐った。そうしてうとうとと酔いかけているうちに、いつのまにか知らず識らずに、醜く醜く……といったような気持で、大きな口をあちらこちらに歪めたり、眼瞼のたるんだ眼をぼんやり見据えて、太い眉をぴくりぴくり顰めたりしていた。

誰を何を、愛していいか憎んでいいか、それがごっちゃになっていた。

さらさらと雪が落ちるような気配に、中野さんは我に返った。そして茶の間の方へ立っていって、年上の女中に尋ねた。

「あの男をどう思う。」

「そうでございますね……。