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とりかじ

取舵

泉 鏡花

「太陽 創刊号」

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,453 字 · 15 页

青空文庫

これは大いにそうだろう。沖で暴風でも吃ッた時には、一寸先は闇だ。そういう場合には名人は肚で漕ぐから確さ。

生憎この近眼だから、顔は瞭然見えなかッたが、咥煙管で艪を押すその持重加減! 遖れ見物だッたよ。」

饒舌先生も遂に口を噤みて、そぞろに興を催したりき。

下

魚津より三日市、浦山、船見、泊など、沿岸の諸駅を過ぎて、越中越後の境なる関という村を望むまで、陰晴すこぶる常ならず。日光の隠顕するごとに、天の色はあるいは黒く、あるいは蒼く、濃緑に、浅葱に、朱のごとく、雪のごとく、激しく異状を示したり。

邇く水陸を画れる一帯の連山中に崛起せる、御神楽嶽飯豊山の腰を十重二十重にれる灰汁のごとき靄は、揺曳して巓に騰り、見る見る天上に蔓りて、怪物などの今や時を得んずるにはあらざるかと、いと凄じき気色なりき。

元来伏木直江津間の航路の三分の一は、遙に能登半島の庇護によりて、辛くも内海を形成れども、泊以東は全く洋々たる外海にて、快晴の日は、佐渡島の糢糊たるを見るのみなれば、四面茫として、荒波山の崩るるごとく、心易かる航行は一年中半日も有難きなり。

さるほどに汽船の出発は大事を取りて、十分に天気を信ずるにあらざれば、解纜を見合すをもて、却りて危険の虞寡しと謂えり。