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くちぶえをふくぶし

口笛を吹く武士

林 不忘

「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,467 字 · 21 页

青空文庫

はっはっは。」

が、かれは、小林の真剣な表情に気がつくと、名鑑のうえに眼を落として、

「ふうむ。で、この前原というのが、あのうら門まえの米屋だという確証は、挙がっているのですな。それなら、今夜にでも、ぶった斬ってしまいますが。」

「まあ、待て。こっちのほうは、いま星野に命じて探りを入れさせている。」

「では、その報告を待ってからのことに――だが、どうも私は、皆すこし、神経過敏になっているように思う。」

「しかし、清水、暮れに近づいたせいか、何かこう、世上騒然としてまいったな。」

「そういわれると、」と、一角は、微笑して、刀をかまえる手真似をした。「近いうちにあるかもしれませんな、これは。」

「うむ。それについてだ。」

小林は、膝をすすめて、

「君の兄貴の狂太郎君、ぜひあの狂太郎君の出馬を仰ぎたいと思ってな――。」

一角も、火桶ごしに乗り出して、小林の口へ耳を持って行った。

密談が、つづいた。

元禄十五年、十二月四日だ。

三

「兄者、兄者っ――!」

清水一角の武骨な手が、きょうも朝から食らい酔って大の字形に寝こんでいる、兄狂太郎のからだに掛かって、揺り起そうとした。