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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
自信はないが、最善を尽すしかないという覚悟に或る安心が伴った。それにしても、彼には解けきれない一つの疑問があった。何故、血気に逸(はや)る年頃のあの若者が、今一息という際で、自分の命を許したのだろう。
四十六
「許す! 許す!」
苦々しげに、白髭をしごき、ルスタムは頭の裡で呟いた。「実に、恥辱極まることだ」
彼が人目をさけて天幕に戻り、ギーウを拒んだのも、自分が慈悲を受けたのを目撃した、その眼を見るに堪えなかったからなのだが、思えば思うほど、彼に若者の心持は不可解であった。何のために彼はあんなに皮肉な念を押したのか。
「ルスタムでは、ないのだろうな」
それを思うと、ルスタムは、全身が焔をはくような気がした。あの無念さ。飛びついて煙を吐く火花とならずに、しめっぽい涙が出たのは寧ろ不思議な位だ。
然し、何故、あの若者は、あの好機をはずしたろう。何が躊躇させたか。ルスタムは、知らないうちに腰架を立上り、天幕の円錐形の屋根の下を、彼方此方に歩き出した。
そして、一つの考えを追った。ごく表面的にとれば、ちょっとしたはずみであったらしくも見えるそのことの裡には、ルスタムの心を牽いてはなさないものがあった。