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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
誰かが後向になった彼の肩に触った。見ると今迄祖父と話していた男が、
「祖父様がお呼びになります」
と、立っている。スーラーブは、その男の顔と、病人の方とを、一寸見較べた。
彼は、進まない心持で歩き出した。病人になってから祖父は、幼い彼に何処となく見違えるこわさを持っている。
三
床の傍まで来ると、スーラーブは、恭しく右手を胸に当てて頭を下げた。そして、張り切った子供の注意で凝っと祖父の顔を見下した。老人は、急に沢山になった藪のような白髭と白眉毛の間に、弾力のない黄色い皮膚をのぞかせ一言を云おうとする前に、幾度も幾度も、あぶあぶと唇を動かす。唇に色がなく、口を開けると暗い坑のように見えるのが、スーラーブに無気味に感じられた。
付添っていた家臣が、背に手を当てて、彼を病人の顔に近く、かがませた。スーラーブは、我知らず、自分の顔が、異様な祖父の顔にくっつくのを恐れ、頭を持ち上げた。
祖父は、なお暫く息を吸ってから、やっと聴こえる声で、
「スーラーブ!」
と、彼の名を呼んだ。弱々しい切なげな声が恐ろしい容貌を忘れて馴れた祖父を思い出させ、スーラーブは、俄に喉がぐっとなるのを覚えた。