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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

捕虜に先手を打たれてしまった。もう、どんな自分の言葉も、切実な強さを持ち得ないのを彼は明かに知った。彼に遺されている一つの道は、優者らしい暴虐さで、云えない捕虜を攻め立てることばかりだ。そんなことは彼に出来ることでなかった。スーラーブは、腕組をし、脚を開いて立ち、石のように黙り込んだ。頭の上で、太陽は微かな音を立てながら、天の真中へ進んで来るようであった。陣地には、今にも、開戦準備の角笛が鳴り渡りそうであった。彼に遺されている時間は、ほんの一刻だ。その貴重な暫くが、自分の運命には些の恩沢も与えようとせず、冷然と、ついそこを通りすぎてしまうのか。スーラーブは、ふけた顔付きになり、逞しい若い胸の奥で身ぶるいをした。暗い眼で、しげしげと無標の天幕を瞰渡した。その間に、捕虜は、私かに彼を偸見た。男は、凡そ見当はついていたのに癪で真直云えなかったのである。なぐられないのが、男にとっては意外であった。そして、スーラーブの顔付を見たら、彼の感情は動いた。何かまるで淋しそうな色が、スーラーブの体全体に満ちていた。正面を向いたぎりで、男は、同情に似た静かな光を眼に泛べたが、スーラーブが、彼を見そうにすると、はっと彼の顔は変った。