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こてんふう

古典風

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,400 字 · 21 页

青空文庫

は、ほんとうに、毎日こうしてうちで遊んでいるよりは、と機嫌よく承知した。店のお得意筋に当るさる身分ある方の御隠居の口添で、奉公先がきまった。美濃伯爵家である。

美濃家は、淋しい家であった。てるは、お寺に来たような気がした。奉公に来て二日目の朝、てるは庭先で手帖を一冊ひろった。それには、わけのわからぬ事が、いっぱい書かれて在った。美濃十郎の手帖である。

○あれでもない、これでもない。

○何も無い。

○FNへチップ五円わすれぬこと。薔薇の花束、白と薄紅がよからむ。水曜日。手渡す時の仕草が問題。

○ネロの孤独に就いて。

○どんないい人の優しい挨拶にも、何か打算が在るのだと思うと、つらいね。

○誰か殺して呉れ。

○以後、洋服は月賦のこと。断行せよ。

○本気になれぬ。

○ゆうべ、うらない看てもらった。長生する由。子供がたくさん出来る由。

○飼いごろし。

○モオツアルト。Mozart.

○人のためになって死にたい。

○コーヒー八杯呑んでみる。なんともなし。

○文化の敵、ラジオ。拡声器。

○自転車一台購入。べつに使途なし。

○もりたや女将に六百円手交。借銭は人生の義務か。

○駱駝が針の穴をくぐるとは、それや無理な。