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たいふうのこ
台風の子
小川 未明
「日本の子供」1941(昭和16)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,662 字 · 8 页
龍夫と源吉の二人は、仲のいい友だちでした、二人は、台風が大好きなのでした。
「源ちゃん、また台風がくるって、ラジオでいったよ。いつくるかなあ、きょうの晩くるかもしれない。いまごろ二十キロの速さで、海の上を吹いているんだね、すごいだろうな。」
彼は、雨と風の荒れ狂う渺茫たる海原を想像して感歎の声を放ちました。龍夫の父親は、南洋の会社に勤めていて、その地で病死したのです。なんでも臨終のさいまで、もう一度故国へ帰りたいといっていたことが、会社の友だちの便りで知らされると、
「きっと、お父さんの魂は、風に乗って帰ってきなさるだろう。」と、龍夫の母親は、いいました。彼の耳には、いつまでもその言葉が、消えずに残っていました。それで、台風の日には、かならず父親の魂が、飛ぶ雲と風に乗ってくるものと信じていました。
「台風は生きているってね。」
「ああ、僕の兄さんもそういっていた。」
「風が、ほんとうに生きているのかしらん。」
「目もあるし、口もあるし、尾もあるというから、生きているのさ。」
源吉が、こういうと、龍夫は、喜ばしげに目を輝かして、
「口もあるの?」と、ききかえしました。