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たいふうのこ
台風の子
小川 未明
「日本の子供」1941(昭和16)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,662 字 · 8 页
「いま台風は、僕の家の上を通りかけるのだ。龍夫くんがくるだろう。」
源吉は、風の比較的当たらない、北窓の戸を開けて空を仰ぐと、地球が動くように、黒雲がぐんぐんと流れている。けれど、またところどころに雲切れがしていて、そこからは、ほの白く光がもれるのでありました。
「龍夫ちゃん!」
源吉は、出るだけの声を張りあげて叫んだ。その声も、暴風に消されて、ほかの人間の耳には入らなかった。そして、窓から差し出した紙の旗は、たちまち雨に破り飛ばされて、竹の棒だけが手に残ったのでした。
「きっと龍夫ちゃんが、持っていったんだ。」
そう思うと、不思議や暗い空に大きな穴が開いて、星の光が、幾つか、ダイヤモンドのごとくかがやきました。
「龍夫ちゃん。」
もう一度、彼は、星に向かって叫んだのでした。
風ばかりでなく、星も、雲も、ことごとく生きていました。そして、ひとすじの細い光線が、空から胸へ突きさしたごとく感じて、真心さえあれば、龍夫が死んだお父さんにあえたであろうように、源吉はいつでも台風の日には龍夫にあえると信じたのでした。
台風の過ぎた、翌日の朝の空色は、いつもよりかもっと、もっときれいでした。