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ねむのきのかげ
合歓木の蔭
山本 周五郎
「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,740 字 · 27 页
昼間も日のさすところを嫌って、居間に閉じこもってはもの思いにふけった。
良人は奈尾の変化に気づいたようであった。しかし娘じぶんからの性質を知っているので、くどくきいたりことさらいたわったりする態度を控えているようにみえた。召使たちもいつか不安そうなおどおどした動作になり、なるべく奈尾の前から逃げていようとした。――これらも気の毒というよりも退屈で、暗くもの哀しく、いらいらと満ち足りない日が息苦しいほど緩慢にたっていった。
年が明けて二月に、奈尾の亡母の七年忌があり、七日ほど椙原の家に滞在した。三月にはいって間もなく兄の市蔵が結婚し、ついで奈尾自身が風邪で十日ほど寝た。もちろんたいしたことではなかったが、このあいだにだいぶ見舞いをうけたり、手紙や贈り物をもらったりした。もうほとんどなおってからのことである、「絢」という覚えのない名の手紙が届き、すぐにひらいてみたが、奈尾はたちまち蒼くなった。一年まえのあの筆跡であった、それはこう書いてあった。
――合歓木をお植えなされ候ことわが身のいのちを覚えそろ、御いたつきの趣き承まわり及び候より、夜々、合歓木の樹蔭にて御平癒を祈りまいらせそろ、おはこびある折のありや否やは知らず、せめて祈りの夜々のみは赦したまわり候え。