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よしだしょういん
吉田松陰
徳富 蘇峰
「国民之友」1892(明治25)年5月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 135,622 字 · 269 页
彼さえ将軍とならば、上は朝廷の思召にも叶い、下は諸侯の望をも帰し、内は幕府の中心点を固うし、外は天下の威信をも繋がんと思えり。約言すれば彼を以て公武合体、朝廷、幕府、諸侯、三位一体の権化となせり。諸侯を問わず、公卿を問わず、浮浪を問わず、幕臣を問わず、彼らが期せずして儲君擁立運動に従事したるも、また宜べならずや。
将軍家定は、賢明年長なる儲弐出で来る時には、己れは押込隠居とならざるべからざるを知れり。彼はその父前将軍の一橋慶喜を愛したるに反比例して、彼を好まざりき。いわんや幕政動機の潜伏処たる大奥の浸潤あるにおいてをや。ともかくも井伊直弼は、宮廷隠謀の中より幕閣の御用部屋に出で来れり。彼は一死を以て将に倒れんとしたる幕政を挽回せんと欲したり。然れども彼を援引したるものは、実に儲君論その主眼にして、彼は実に一橋党のために擁せられて、ここに至りたるを忘るべからず。
井伊直弼は、儲君論よりして、水戸派と反対したるか、水戸派と反対したるが故に、儲君論に反対したるか。その主客の何の辺にあるか、今日においてこれを揣摩する能わざれども、彼は確かに将軍家定の知遇に感激し、一死を以てこれに酬いんと欲したり。