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よしだしょういん
吉田松陰
徳富 蘇峰
「国民之友」1892(明治25)年5月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 135,622 字 · 269 页
時これ三月二十七日、外人の上陸するを見て、予ねて草したる漢文の書翰を投じ、柿崎弁天祠に入りて潮の来るを俟ち、その沙洲に繋ぎたる漁舟に乗り出でんとす。あたかもこれ天地も眠る丑時にして、独り天上の星、地上の海波これを知るのみ。生憎や櫓柱損じて如何ともする能わず、急に犢鼻褌を解き、櫂を左右の舷に結び、二人極力これを揺かす、忽ちにして褌絶つ。急に帯を解き、これを結び、蒼皇以て舟を行る。その具素より備わらず、術また熱せず、舟動もすれば木葉の如く波上に廻旋して前まず、波濤漠々として前途茫たり、最早力竭き、腕脱し、如何ともする能わざる場合に迫りしも、遂に一徹の精神は船を送りて、漸くミシシッピー号に達せしめたり。来る者は誰ぞ。艦上の人は怪んで船灯を下しこれを照らす。彼その光を借りて漢字を書して曰く、「吾ら、米利堅に往かんと欲す、君、幸いにこれを大将に請え」と。梯子を攀じて上り、船員の来るを見てこれに与う。彼れ語意半ば通じ半ば解せず、手語してボウパタン号に往くを示す、これ旗艦にして、ペルリここにあり。ここにおいて彼ら復た小舟に乗る。行くこと一丁、遂に旗艦の内側に近づかんとして得ず、波に動かされてその外側に達す。