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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

「富士」1936(昭和11)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页

青空文庫

その手を銀之丞は烈しく打振った。

「……千六殿……約束しょう。……イ……今から丸一年目に……イ……今一度、ここで会おう。それまでに二人とも、あの金丸長者を見返すほどの金子をこしらえよう。二人の力を合わせても、あの売女奴を身請しよう」

千六は感激に溢るる涙を拭いもあえず首肯いた。一層固く銀之丞の手を握り締めた。銀之丞は遥かに遠ざかった満月の傘を振りかえった。ギリギリと歯噛みをした。

「……やおれ……身請けした暁には、思い知らさいでおこうものか。ズタズタに切り苛んで、青痰を吐きかけて、道傍に蹴り棄てても見せようものを……」

「シッ……お声が……」

二人はそのまま人ごみに紛れて左右に別れた。大空の満月が花の上にさしかかる頃であった。

銀之丞は東海道を江戸へ志した。

思い迫って約束した一年の短かい間に、どうしたら望み通りの金が稼げるかと……思案に暮るる一人旅。京外れで買うた尺八の歌口を嘗め嘗め破れ扇を差出しながら、宿場宿場の揚雲雀を道連れに、江戸へ出るには出たものの、男振りよりほかに取柄のない柔弱武士とて、切取り強盗はもちろん叶わず。押借り騙取の度胸も持合わせず。