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めいしょうまんげつ
名娼満月
夢野 久作
「富士」1936(昭和11)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页
賭博、相場の器用さなど、夢にも思い及ばぬまま、三日すれば止められぬ乞食根性をそのまま。京都とは似ても似付かぬ町人の気強さを恐れて、屋敷町や町外れの農家や小商人の軒先をうろ付きまわり、一文二文の合力に、生命をつなぐ心細さ。金儲けどころか立身どころか。派手な大小印籠までも塩鰯と剥げ印籠に取りかえる落ちぶれよう。稀には場末の色町らしい処で笠の中を覗き込んで馬糞女郎や安芸妓たちにムゴがられて、思わず収入に有付いたり、そんな女どもの取なしで田舎大尽に酒肴を御馳走され、一二番の戯れ小唄の御褒美に小袖、穿物、手拭なぞ貰うて帰る事もあり。そのほか役者衆に拾われかけたり、絵草子屋に売子を頼まれたりなぞ、色々な眼に出会うたものであったが、それでも女色にだけは決して近付かなかった。去る金持後家に見込まれて昼日中、引手茶屋に引上げられ、小謡いがまだ二三番と済まぬうちに脂切った腕を首にさし廻わされた時なぞ、血相をかえて塩鰯をひねくりまわし、後退りして逃げて来るという、世にも身固い、涙ぐましい月日が、いつの間にか夢のように流れて、早や笑うてくれる鬼もない来年の正月。約束の三月も程近い銀之丞が二十五の春となった。