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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

「富士」1936(昭和11)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页

青空文庫

そのうちに盆茣蓙の真中に伏せてあった骰子壺が引っくり返ると、和尚の負けになったらしく、積上げられた寺銭が、大勢の笑い声の中にザラザラと崩れて行く。それを見ると和尚が不機嫌そうにトロンとした眼を据えて、

「……これはいかん。ああ。酔うた酔うた。ドレちょっと一パイ水でも呑んで来ようか」

と云ううちに立上った和尚の物すごい眼尻に引かえて、唇元の微かな薄笑いが、裸体蝋燭の光りにチラリと映ったのを銀之丞は見逃がさなかった。

銀之丞はコッソリと雨戸から離れて、ドシンドシンという和尚の足音が、どこへ行くかを聞き送っていた。

和尚の足音は渡殿を渡って庫裡の方へ消えて行った。そこの闇がりで水を飲む柄杓の音がカラカラと聞こえたが、やがて又今度は音も立てずにヒッソリと渡殿を引返して、何やドッと笑い合う賭博連中のどよめきを他所に、本堂の外廊下の暗に消え込んで行ったと思うと、不思議なるかな。さしもの本堂の大伽藍の鴨井のあたりからギイギイと音を立てて揺れはじめ、だんだん烈しくなって来て本堂一面に砂の雨がザアザアと降り出し、軒の瓦がゾロゾロガラガラと辷り落ちて、バチンバチンと庭の面を打つ騒ぎに、並居る渡世人や百姓の面々は、すはこそ出たぞ、地震地震と取るものも取りあえず、燭台を蹴倒し、雨戸を蹴放して家の外へ飛び出せば、本堂の中は真暗闇