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めいしょうまんげつ

名娼満月

夢野 久作

「富士」1936(昭和11)年4月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页

青空文庫

その声に驚いて、外に逃出していた百姓連中がワイワイと駈集まって来るのを、銀之丞は和尚の屍体に片足かけたまま見下した。引抜いた血刀を構えながら凜々たる声を張上げて叫んだ。

「……騒ぐな騒ぐな。百姓共。よく聞けよ。身共は京都に在します一品薬王寺宮様の御申付によって是まで参いった宮侍、吉岡鉄之進と申す者じゃ。そもそもこの寺は今川義元公の没落後、東照宮様の御心入れによって、薬王寺宮様の御支配寺になっていたものをこれなる悪僧が横領致して、不思議なる働きをなし、その方共が持寄る不浄の金を掻集めおる噂が、勿体なくも宮様の御耳に入り、一日も早く件の悪僧を誅戮なし、下々の難儀を救い取らせよとの有難い思召によって、はるばる身共を差遣わされた次第じゃ。只今首尾よくこの悪僧を仕止めた以上、この寺に在る不浄の金銭は残らず宮家に於て召上げられる故に左様心得よ。なおその方共は身共の下知に従って、隠れたる金銀を探し出し、身共の差図通りに取形付けを致すならば、今日持って参いった賭博の資金は各自に相違なく返し遣わすのみならず、賃銀は望みに任するであろう。もし又、否やを申す者があるならば、一品宮様の御罰までもない。