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めいしょうまんげつ
名娼満月
夢野 久作
「富士」1936(昭和11)年4月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,840 字 · 37 页
関白七条家の御書院番で、俗に公家侍というだけに、髪の結い振り。素袍、小袴の着こなしよう。さては又腰に提げた堆朱の印籠から青貝の鞘、茶、白金具という両刀の好みまで優にやさしく、水際立った眼元口元も土佐絵の中から脱け出したよう。女にしても見まほしい腮から横鬢へかけて、心持ち青々と苦味走ったところなぞ、熨斗目、麻裃を着せたなら天晴れ何万石の若殿様にも見えるであろう。俺ほどの男ぶりに満月が惚れぬ筈はない。日本一の美男と美女じゃもの。これが一所にならぬ話の筋は世間にあるまい……といったような自惚れから、柄にない無理算段をして通い初めたのが運の尽き。案の定惚れたと見せたは満月の手管らしかった。天下の色男と自任していた銀之丞が、花魁に身上げでもさせる事か。忽ちの中に金に詰まり初め、御書院番のお役目の最中は、居眠りばかりしていながらに、時分を見計らっては受持っている宝物棚の中から、音に名高い利休の茶匙、小倉の色紙を初め、仁清の香炉、欽窯の花瓶なぞ、七条家の御門の外に出た事のない御秘蔵の書画骨董の数々を盗み出して、コッソリと大阪の商人に売りこかし、満月に入れ揚げるのを当然の権利か義務のように心得ている有様であった。