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ノンセンス

呑仙士

夢野 久作

「モダン日本 6巻2号」1935(昭和10)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,104 字 · 5 页

青空文庫

見ると夥しく黒血がニジンで乾干付いている。トテモ痛そうである。

「どうしたんだい。正月々……」

と聞いてみると国原は、酒腫れに腫れた赤黒い入道顔を撫でまわした。

「ウン。昨日社長の処で一杯飲んで帰りがけに、芋倉長江が嬉しいと言ってここに喰い付きやがったんだ。俺を西洋の貴婦人と間違えてキッスするのかと思っていたら、飛び上る程痛くなったから大腰で投げ飛ばして遣ったんだ。まだズキズキするが、右手でなくてよかった」

と言って涙ぐんでいる。

そこへ当の芋倉長江画伯が、死人のような青い顔に宗匠頭巾、灰色の十徳という扮装で茫々然と出社して来た。見ると向う歯が二本、根元からポッキリ折れて妙な淋しい顔になっている。私は驚いて、

「ずいぶん非道く啖い付いたもんだね」

と慰めて? 遣ったら、長江画伯イヨイヨ茫然とした淋しい顔になって眼をパチパチさせた。

「イヤ。これはいつ打たれたのか、わからないのです」

と謙遜? するのを横合いから国原が引き取った。

「ウン。それは僕が知っとる。僕が君を投げ飛ばして遣ったら、君はイヨイヨ嬉しいと言って横に立っていた電信柱に喰い付きよった。その時に柱に打ち付けて在る針金に前歯が引っかかって折れたんだ。