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ぜんあくりょうめんねずみこぞう

善悪両面鼠小僧

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,231 字 · 21 页

青空文庫

「どうぞお上り遊ばして」

「店先の立話も変なものだな。どれちょっと邪魔しようか」

座敷へ通って座を構えると、

「次郎吉どん、おいでかな?」

「離れの方に……まだ眠んで……ホホホ」とお松は笑う。

「白河夜船か。ちと困ったな」

「すぐ起こして参ります」

「少し訊きたいこともあり、少し話したいこともある。それでは呼んで来て貰おうかな」

「かしこまりましてございます」

間もなく次郎吉は遣って来た。

白布で右の肘を巻いている。坐るとピッタリ手を支え、

「これはこれは中條様、ようこそおいで下されました」

そういう声にも元気がない。顔の色も勝れない。

その様子を鋭い眼で、じっと軍十郎は見守ったが、

「内儀」と云って調子を砕き、

「今日はちょっと密談だ。座を外してはくれまいか」

「おやマアさようでございますか」

軽く受けたが不安そうに、

「どんな内緒のお話やら」

「色話だ。心配せぬがよい。アッハハハ」と洒然として笑う。

「おやおや左様でございますか。それはマア大変でございますこと。ほんにそれでは女房がいてはお話しにくいでございましょう。どれ妾は店の方へ」

美しく笑って座を外した。

後には二人差し向かい、しばらく双方とも黙っていたが、軍十郎はややあって一膝々をいざり出た。