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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

浜口治平

静江  妻

美紗  長女

八穂  次女

秋元 博  浜口の秘書

かつ

横浜、磯子屏風ヶ浦の台地にある浜口の邸。

早春。――午前十時頃。

サン・ルームの広廊をひかえた古風な食堂。

晴れた寒い朝。蹲踞の水に薄氷が張っている。芝生の広い庭のむこうに早春の海。

静江と八穂、食卓について遅い朝食をしている。

八穂 コオフィ……(珈琲の茶碗をつきだす)

静江 三杯目よ……いいにしておきなさい……また眼がギョロギョロするでしょう。

八穂 (パアコレーターをひきよせて珈琲をつぐ)寒くて死にそうだ。脛のあたりがすうすうする。(かつに)かつや、もっと薪を入れて。

かつ はい。

八穂 じゃんじゃん燃やせ、威勢よく。

静江 そんなに寒いかしら。あなた、どうかしているのよ。

八穂 ママ、夜中に寒波が来たの知っている?……すごかったんだぜ、窓ガラスにいちめんに氷花がついて。

静江 (かつに)旦那さま、昨夜、いく時頃お帰りだった?

かつ 一時半でございました。

静江 なにか召しあがったの?

かつ 寒いとおっしゃって、ホット・ウィスキーを……

静江 調べものはなさらなかったのね。

かつ はい、すぐおやすみになりました。