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もふく
喪服
久生 十蘭
「文學界」1957(昭和32)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页
静江 出入りなんかしていませんわ。
浜口 こちらから出掛けて行けァおなじことだ。次官ともあろうものの細君が、娘たちとキャバレーへ行って酒を飲むなんて、なんのざまだ。
静江 へらへらしているけど、悪いというようなひとでもないでしょう。血のつながった、たった一人の甥を、根岸台のあんなバンガローに追いあげて、いっさい構いつけないなんて……せめて、あたしが蔭にまわって庇うぐらいのことをしなくっちゃ、世間のもの笑いになります。
浜口 いつだったか、秋元がいっていた……柳さんはいい青年なんだが、女たちが寄ってたかって駄目にしてしまう、って。
静江 秋元さんはあなたの秘書だから、あたりのいいことをいうのよ。
浜口 こんなこともいっていた。妙に女好きのするタイプだから、あれじゃ、死にでもしないかぎり、苦労は絶えまい、って。
八穂 ねえ、パパ、お言葉ですけれど、死んでほっとするのは、一郎さんでなくて、まわりの女たちのほうらしいわ。
静江 八穂さん、あなた、なにをいいだすつもり?
浜口 いいじゃないか、言わせておけよ。
八穂 実感なんだけど、一族のなかに、あんなひとがいなかったら、あたしにしたって、焦々したりすることはなかったのよ。