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とらわれびと
囚われ人
豊島 与志雄
「群像」1952(昭和27)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,109 字 · 35 页
時彦――また議論をするつもりか。そんなら言ってやろうか。君のずぼらな行動は、すべて、時間を無視するところから起るんだ。退屈はしない代りに、顔を上に挙げ、眼を上に挙げて、真直に歩くことが出来ないんだ。それが分っていながら、わざと白ばくれてるな。そんなのは、卑怯というものだ。そら、また一つ肩書が殖えたぞ、卑怯者とね。
――然し、君が如何に卑怯者で自信家で懶け者であり、そしてこの俺を無視しようとしても、そうはいかないぞ。結局は、俺の一歩一歩に、時間の一秒一秒に、ついて来なければならない。決定的な鉄鎖でつながれているんだ。いくらじたばたしようと、いくら※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)こうと、どうにもならないぞ。
――だから、いっそのこと、俺に従順になってはどうだ。そっぽ向かないで、俺の方をじっと見るがいい。ずいぶんと可愛がってやるよ。そしたら君は、昂然と頭をもたげて歩けるだろう。如何なる場合にも自由に口が利けるだろう。さあどうだ、俺に素直について来い。そっぽ向かないで、俺の方にだけ眼を向けろよ。
時彦は正夫の注意を惹こうとするかのように、卓をことこと叩く。