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とらわれ

囚われ

豊島 与志雄

「早稲田文学」1915(大正4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页

青空文庫

」と恒雄はきいた。

「さっぱりまだ手掛りがありません。」

孝太郎はこう答えながら自分の身をかえりみた。彼は学校を卒業してある職業を探しながら閑散な日を送るようになってから、種々の都合上恒雄の家に起臥するようになったのである。それからもう半歳余りの日が過ぎた。彼はただ閑散なるままに懶惰な生活をして時を過した。

「君のように何時も呑気だといいですね。」

「そう呑気だというんでもありませんけれど、何だか世間のことはうるさくて。」

それから二人は暫く種々な世間話をした。けれど孝太郎はそうしているのが次第に不安になって来た。恒雄が何かを押し隠すような風にしているのが気にかかったのである。それで直接にこう尋ねてみた。

「何だか今日は少し苛ら苛らしていらるるようじゃありませんか。」

「ええそうかも知れません。」と恒雄は平気で答えた。

「何か御心配のことでも?」

「やはりいつもの問題なんです。僕は常にそればかり考えさせられるようになったんです。そして次第に悲しい結論に達してきます。」

「結論だと仰言ると?」

「さあ何と云ったらいいですかね。……まあ一口に云えば僕は到底富子と根本から相容れないということです。