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とらわれ
囚われ
豊島 与志雄
「早稲田文学」1915(大正4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页
」
「それは無理にそういう風に考えようとなさるからではないでしょうか。実際あなたは余りに富子さんの過去に拘泥しすぎていらるるようです。」
「いやそうでもないんです。と云うのは、僕は今迄と別な方面から考えたんですがね。実際僕は今迄ただ妻をじっと見ていたきりで、自分の方はお留守にしていたんですね。それも妻というものに余り期待を大きく持ちすぎていたからでしょう。僕の理想は現実から美事に裏切られてしまったのです。それを僕はなぜだなぜだと云って妻に責めまた自分に責めたんです。現実の姿に向って何故だと問うのは過去を現在に返せというのと同じに馬鹿げたことなんですね。で僕はもう妻に向ってなぜ僕の理想通りでないのかと責めはしませんでした。その代りに富子という者と僕という者とを別々に引き離して見てみたんです。すると僕と富子とはどうしても相容れない二つのものだと思うようになったんです」
「するとあなたは全く孤独を見出されたわけですか。」
「いや全くの孤独というものを僕は信じません。実際僕は自分を見る時、自分のうちに妻の……そうですね、匂い、息、いや兎に角何かを見出すんです。僕のうちには妻の肉体が深く喰い込んでいます。