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とらわれ
囚われ
豊島 与志雄
「早稲田文学」1915(大正4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页
そして強い嫌悪と腹立たしさが彼の頭脳をめちゃくちゃにかき乱した。
孝太郎は彼の所謂サロンの寝椅子にねそべって、また同じことを幾度もぐるぐると考え直してみた。そして終りには訳の分らない模糊たる霧と懶い疲労とを覚えた。
その時富子が静に梯子段を上って来て黙って彼の前に立った。
「どうしたんです。」と彼は云った。
「あなたこそどうなすったんです、そんな顔をして。」
孝太郎はただ何とはなしに片手の掌で額をなでた。それから椅子を下りて、富子と並んで足を投げ出した。そして何時までも黙っている富子を見て、妙に堅くなってしまった。
「あなたは近頃どうかなすったのではありませんか。」と富子が暫くして云った。
「どうしてです。」
「いえただ一寸そんな気がしたものですから。」
「あまり何やかやお考えにならない方がいいんです。考えるとだんだんむつかしくなるばかりですから。」
「むつかしいことなんか私は考えはしませんけれど……もう何だか苦しくなって来ました。」
「あなたは余り外のことばかり見て被居るからいけないんです。自分の心をお留守にしてはいけません。」
「それをあなたは私に……、」と云いかけて富子は孝太郎の眼の中を見入った。