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とらわれ
囚われ
豊島 与志雄
「早稲田文学」1915(大正4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页
何時も同じような記事ばかりで少し倦き倦きしますね。」
それから彼等は、早朝の新聞紙の匂いも暖い夏間に限るものだというようなことを話した。
孝太郎は暫くしてから座を立った。そして台所の方から出て来る富子に出逢った。彼は彼女のふっくらとしたと房々とした髪とを見た。
彼女は一寸立ち留って孝太郎を見た。それから急に快活な調子で、「あちらに行らっしゃい。今お茶を入れますから。」
彼は何故ともなくひどく狼狽した。そしてそのまま富子の後についてまた茶の間に帰った。
彼等はいつでも朝食の前に紅茶を一杯のむことになっていたのである。孝太郎はその朝何だか新奇な気持ちを覚えた。そして紅茶をのみ自分の手付がまずいように思えるのが気にかかって、おずおずと恒雄と富子との方を見た。彼等は何時ものように自由にそして言葉少なに紅茶を飲んだ。
「今日は少し時間に遅れたようだ。」と云って恒雄は柱時計を見上げるようにした。
「そうですか。」
こう云った富子の方を恒雄はじっと見やった。然し彼はそれきり何とも云わなかった。
富子はまもなく立ち上った。その時ふと自分の方に向いた彼女の眼の中に孝太郎はちらと昨日の感覚を見出して喫驚した。