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よんじゅうはちにんめ
四十八人目
森田 草平
「改造」1929(昭和4)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,183 字 · 112 页
と、小平太はちょっと袖のあたりを振返りながら、わざとらしく笑ってみせた。こんな風に身を落してこそおれ、今に見よ、同志揃って吉良邸に乗りこみさえすれば、主君の仇を討った忠義の士として、世に謳われる身だというような意識がちらと頭の中を翳めたのである。
「それに」と、彼はまた何気なくつづけた。「あのへんは手前もちょくちょく参りますから、また通りがかりに寄せていただくこともございましょう。どうかお帰りになったら、小平太がよろしく申したと、母御にお伝えくだされい」
まだ何やら訊いてみたいような気もしたが、人目を惹くのがいやさに、小平太は茶代を払って、そこそこに茶店を出てしまった。年が若いだけに、思わぬ邂逅から妙に心をそそられたところへ、女の涙に濡れた顔を見て、大事を抱えた身とは知りながら、ついそれを忘れるような気持にもなったものらしい。夕日を仰いで、田圃の中の一筋道を辿りながらも、彼は幾度か後を振返ろうとして、そのたびにようようの思いで喰いとめた。
二
去年三月主君浅野内匠頭、殿中にて高家の筆頭吉良上野介を刃傷に及ばれ、即日芝の田村邸において御切腹、同時に鉄砲洲の邸はお召し上げとなるまで、毛利小平太は二十石五人扶持を頂戴して、これも同志の一人大石瀬左衛門の下に大納戸係を勤めていた。