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しじゅうねんまえのふくろだのたき
四十年前の袋田の瀑
木暮 理太郎
「旅」1936(昭和11)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,049 字 · 8 页
平潟に限らず、浜街道の宿では泊りは総て十七銭で、比目魚か鮪の刺身に玉子焼が普通であった。それに昼食が五銭乃至七銭、草鞋が一銭、合計一日二十五銭で足りる、懐に十円あれば、たまには贅沢をして三十銭の上等で泊っても優に一ヶ月の旅行が楽しめるのであった。
里川の谷に出ると明るく感じた。太田から棚倉に至る茨城街道が低く連なる山脈の麓に沿うて南北に通じている。秋の末ながら五百米前後の山では紅葉は纔に盛りを過ぎた程度で、頂を霧に包まれた急峻な山側には、二日続きの雨に水量を増した幾条もの瀑が紅葉の間に白く懸っているのが目を慰めた。殊に小中の西に聳ゆる鍋倉山は、妙義山に似た岩山で、すぐれた眺めであった。
小生瀬に着いて瀑のことを聞くと、すぐそこだという。しかし道は同じ名の川を左岸に沿うてゆくのであるが、瀑の懸っている絶壁は下れないので、月居峠を迂回しなければならない。峠の頂上にある稍長いトンネルを抜けると、目の前が急に明るく開けて、久慈川の谷が脚下に瞰られた。この二日間、物惜しみする年寄のように眺望を遮っていた執拗な霧も、この峠から以西には其勢力を及ぼさない。空は高い雲に掩われているが、近い八溝山から遠い那須高原の山々に至る迄、裾さばきゆたかに、少し茜色のさした西の空に頭を擡げているのが望まれた。