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としょかん
図書館
宮本 百合子
「文芸」1947(昭和22)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,707 字 · 14 页
のであった。
それから三十年近い歳月の間には、波瀾があった。私は一人の女として、何年も図書館など見向きもしない有様で暮したことがある。そうかと思うと、又ひょっこり現れて、暫く熱心に通いつづけるという工合であった。そういう風にして、何年ぶりかで図書館へゆくとき、いつも、そこに一人の司書の小堅い顔と黒い上っぱりのくくれた袖口とを思い出した。その人はいるかしら、と思って来て、待つ間に見まわすと、たがわずその司書は、もとのように司書の席にいるのを発見するのであった。それは、たまにゆく古馴染の家の見なれた目じるしの柱の節のようであった。格別何という意味はない。けれども、そこへ行って見てその節があると、何となく心がおさまる。私にとってそういう風な、図書館の一つのつきものなのであった。書籍をかかえて書庫との間を往復する少年や青年たちの、あの興味なさそうな、のろくさいすべての動作と埃っぽい顔色と同じように。――
この前に来たときと、きょうとの間に七年の月日が経過している。間に戦争のはさまった七年であった。あの司書はいるだろうか。左へ右へ司書の顔を見くらべた。それらしい人は見当らない。