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こっきょう

国境

黒島 伝治

「戦旗」1931(昭和6)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,336 字 · 21 页

青空文庫

クヅネツォフは、対岸の、北の村に住んでいる富農だ。パン粉を買い占めたり、チーズを買い占めたり、そして、それを労働者に高くで売りつける。そんなことを常習のようにやっている男だ。みんなに毛ぎらいされていた。

「へへ、自分で持って行くがええや」

おやじが去ったあとで、呉清輝は呟いた。

田川は、これまで生きてきた日本の生活よりも、また、北満の河の北方側の生活よりも、河のかなたの生活の方がはるかにいいと心から思うことがたびたびあった。理屈ではなかった。街を歩いていると彼と同年くらいのロシアの青年たちの暗い影がちっともない顔を見てそう思うのだ。大またに、のしのしとまったく心配なげな歩きッぷりで歩いている。それを見てそう思うのだ。あの顔と較べて、いつも、じろじろ気を配って歩かなければならない罪人のような俺の境遇はどうだ!

彼れらは、銭を持っていることがいらない。仕事を失う心配がない。食うものも着るものも必要なだけ購買組合からあてがわれる。俺らは、ただ金を取るために、危いことだって、気にむかないことだって、何だってやっている。内地でだってそうだ。満州でだってそうだ。