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こくほう
国宝
宮本 百合子
「青年新聞」1949(昭和24)年3月1日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,575 字 · 4 页
きょうの辛さに喘いでいる数十万の未亡人、孤児、戦傷者たちは、かつてはすべて護国の宝であったのだ。法隆寺の例にむきだされた行政官僚の文化に対する無責任は、二月二十一日の読売にのった高瀬荘太郎文相の私立学校つけとどけ木戸御免説となって再現している。本来は人民の文化の富であるはずのものが、おかしな方法で処置される例は、この間アメリカへわたった湯川秀樹博士の純粋の銅塊というものにも見られる。湯川博士のその土産は世界の学者をおどろかしたというのであれば、純粋銅というものは科学的に珍しいものにちがいない。けれども博士は、日本にそういうものがつくられたら、それをアメリカへ土産にもってゆく、とはひとこともいわなかった。こっそり運び出された。そして、あっちで学者がほめた、というようなニュースとして、わたしたち日本の人民に逆輸出されてくる。これがおかしくないことだといえるだろうか。
万葉集の立派な写本は宮内府図書寮とかにあってお歌所の長である佐佐木信綱博士しか見られないものだったそうだ。マチスやユトリロの名画は、日ごろは特定の個人に秘蔵されていて、盗まれ横領にあった騒ぎではじめてわれわれ人民の耳目にふれて来る。