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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

雨あとの地面はしっとりと濡い、空は青く冴え、強い太陽の光が一面に降り注いでいました。へんに蝉の声も少なく、蝶の姿も少なく、ただ静まり返った日でした。

直吉は帽子を投げ捨て、強い陽光の中につっ立って、耕作地を見渡しました。瓦礫や鉄材や雑草の茂みなどに点綴されながら、そしてあちこちの新築バラックに遮られながら、広々とした焼け跡一面に、農作物が勢よく伸びあがっていました。直吉自身の畑地にも、茄子の葉が光り、トマトの実が色づき、胡瓜の蔓が絡みあい、菜っ葉が盛り上り、薩摩芋の根本の土がひびわれていました。

彼は頭を振って雑念を払い落そうとしました。そして、田舎の兄から来た手紙のことに考えを向けました。今年の豊作らしいこと、いろいろな文化施設が計画されてること、然し田舎の生活はこれからが奮闘を要するらしいこと、そしてつまりすべてに張り合いが出来てきたことなど、こまごまと書かれていました。そのことを考えながら、彼は長い間瞑想に沈んでいましたが、やがて、耕作物の一本一本を丹念に見調べはじめました。

そのうちにふと、彼は気がつきました。道路のところに突っ立って、こちらをじっと見ている男があり、それが、田中亮助でした。