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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

他の二人の仲間が彼方でのろのろと仕事をしていました。彼はいい加減に仕事を片づけ、窓際に退いて、瞑想の淵に沈みました。半欠けの月の淡い光りが、高い窓硝子にぼーっとさしていました。

すべてがばかばかしくて、田中亮助に弁解する気にさえなれなかった、あの気持ちが、更に大きく深く彼を取り巻きました。そしてその中に、自分の火傷の跡、ひきつった皮膚や、ちぢれた耳や、赤光りの禿げや、殊にあかんべえの大きな眼が、まざまざと浮き上ってきました。それは正子が言ったように、生れながらのものではありませんでした。然し、彼女のようにそのことだけに安んずることは出来ませんでした。それが後天的なものであるならば、それをプラスとなすだけの心境があらねばなりませんでした。

彼は火傷の時のことをちらと思い浮べました。狭い通路を走りぬけて、一面の火焔の海を突き切ろうとしかかったとたん、がーんと横面に燃える木材の一撃を受けて、そこにのめってしまいました。その後はもう無我夢中で、誰に助けられたか、どうして其処から脱出したか、はっきり分りませんでした。また、病院のベッドの上で闇黒な数日を過した後、左眼が失明せずにすんだことが分り、その眼で朝日の光りを眺めた時も、やはり夢のようでした。