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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

然し馴れるにつれて、その視線に気を留めなくなりました。彼女の視線はただ、どこかへ向けておかなければならないからそこへ向けておく、とそういう性質のもののようで、何かを穿鑿して吸収しようとしてるのとは違っていました。後になると、彼は、自分の大きな赤目やちぢれた耳や耳の後ろの禿げなどを、彼女からじっと見られても、ただ日にあたり風に吹かれるぐらいにしか感じなくなりました。彼女の方でも、日がさし風が吹くような調子で、少しの遠慮もなく彼の火傷の跡に眼をやるのでした。

彼女自身、五体が満足ではなく、少しく跛でした。右の膝関節の屈曲がなめらかでなく、そして右足がちょっと長すぎるか短かすぎるかして、歩調と腰つきに均整がとれませんでした。羽織でもふわりとまとっておれば、それはうっかり見過されるぐらいの程度のものでしたが、それでも、注意深い視線にはすぐに分りました。そういう視線を彼女は日常自分の身に感じているので、それで、他人にも、笠井直吉にも、同様な視線を向けない術を心得ていたのでしょうか。それとも、そんな視線を不用とするような特別な心境に在ったのでしょうか。

それはとにかく、彼女は自分の跛について、一種の自信めいた解釈を持っていました。