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とち

土地

豊島 与志雄

「青年」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,719 字 · 22 页

青空文庫

太陽が西に傾いて、蒸し暑い大気の密度がゆるみ、土の匂いがほのかに漂いだす頃になると、平助と音吉とは別々な感じで、その一日の労働を味わった。平助は益々仕事に身を入れ、音吉はぼんやり考え込んだ。

遠い山陰に夕靄の色が湛え初めると、音吉は鶴嘴を投出して草の上に坐った。

「もう戻ろうよ。」

声をかけられても平助は鍬を離さなかった。

「なまけちゃいけねえ。日を見てみい、まだ照ってるじゃねえか。おいらが若え時分にはな、日が入って寺の鐘が鳴るまじゃあ、仕事を止めなかったもんだ。坊様がなんで鐘をつかさるか、お前は知るめえ。野良に出てるみんなの者に、もう戻るがええと知らして下さるためだ。」

「だが今日はもううんと働えたじゃねえか。」

「働えた上にも働かなくちゃあ、生き甲斐がねえ。」

音吉は口を噤んで、西の山に傾いた赤い太陽を仰いだ。それから眉根を寄せ、両膝の上に頭を垂れて、じっと考え込んでしまった。

「頭痛でもするんか。」

音吉は喫驚したように顔を挙げたが、それをまた膝頭の上に伏せて、思い込んだ調子で云い出した。

「なあ、おらを暫く町せえやってくんねえか。」

「まだそんなこと考えてるんか、昨晩あんなに云ってきかせたになあ……。