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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

上流がよりひどい暴雨に遇い水量を増したのであろう、冷い水蒸気が江面の上に一杯立罩めている。婦は首を突き出したまま長々欠伸をし、薄どんより霞んでいる奔流に目をやった。そして腹立たしげに唾をべっと吐き出すと再び敷藁の上へごろりと横になった。

いつの間にか夜が明け、朝のどんより曇った陽が江面に眩ゆく照り返す頃、土城廊には二人の洋服男が現われた。彼等は大きな帳簿と黒い革袋を抱えて土幕の間を縫い歩いていた。目に見えて刻々水量を増してゆく赤い流れは土城の下部をぐっと食い上げている。土幕から十二三尺下はもう渦を巻く流れである。今少しの所で流れに攫われそうになっている土幕も大部分見える。対岸に堆く積まれていた汚穢物の山は黒く点々と島になり、低い所から濁流は田畑に舌舐めずりしつつ食い入っていた。中流には白い泡や藁屑が一杯漂い流れ、五六羽の燕がそれを追うて羽根を閃かしているのが、気味悪い程美しく見えた。

元三はそんな風景に茫然と眺め入りながら、もういよいよ土城廊の生活もこれで終りなのかと悲しそうに考えた。何とはなしに孤独と絶望の念が胸をしめつけるのだった。だが忘れもしない。