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ざいがくりゆう

在学理由

豊島 与志雄

「日本評論」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页

青空文庫

「いや、そいつあ、まあ……どうか……。」

そしてぷつりと云った。

「止しましょう。」

「なぜですか。」と「とりうち」は問いつめた。

その時の「おやじ」の様子はおかしかった。「とりうち」に答え返すつもりか、また独語か、何やら口の中でぶつぶつ云っていたが、ひょいと手の甲で眼をこすって、それからじっと相手を見つめた。

「わたしはどんな盃でも受ける。だが、息子の名前の出た盃は受けません。親父だけならいつでも受けるが……。」

「これはおかしい。」と「とりうち」もへんに意気ごんできた。

「親父は息子あっての親父で、息子は親父あっての息子だ、息子なしの親父なんて、そんな半端なことはない。」

「ところがある。」

と怒鳴るように云って、彼は「とりうち」の腕を捉えた。

「わたしは、こんなところに、こんな飲んだくれの間に、決して息子を引入れやしない。心に誓ってるんだ。分りますか。分るでしょう。ここに来るのは、わたし一人だ。こないだは、急に死人があったんで、息子が来たが……。後でわたしは叱ってやった。あやまっていたっけ……。正直な若者だ。それに親孝行だ。これからはもう決して、こんなところに足踏みはさせない。